シンガポールの思い出

2010-2014年、星国に滞在していたときの記録

「物語 シンガポールの歴史」を読んだ

*hatenaのほうから転載。

紀伊国屋シンガポール店で平積みになっていた新書。シンガポール在住日本人界隈でも話題になっていた。

イギリス植民地としてのシンガポールの黎明期、日本軍に占領された苦難の時代、大戦終了後の植民地復帰を経ての自治権獲得、その後マレーシアに加盟するものの2年後に独立……という流れを政治・経済の側面から整理している。

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章立てはこんな感じ。

シンガポールの曙 - 19世紀初頭 1. イギリス植民地時代 - 1819 ~ 1941年 2. 日本による占領時代 - 1942 ~ 45年 3. 自立国家の模索 - 1945 ~ 65年 4. リー・クアン・ユー時代 - 1965 ~ 90年 5. ゴー・チョクトン時代 - 1991 ~ 2004年 6. リー・シェンロン - 2004年 ~ 7. シンガポールとは何か

リー・クアン・ユー(LKY)時代の分量がいちばん多く、改めて彼がシンガポールという国に与えた影響の大きさを感じた。しかし本書はそれで終わらずLKY以後のゴー・チョクトン首相時代と、現在も続くリー・シェンロン首相時代についても丁寧に記述している。

「7. シンガポールとは何か」の考察もきわめて納得がいく内容で、シンガポール人に読ませても膝を打ってくれるのではないかと思わせるものだった。この国は、世界の国々との緊密な関係を構築しなければならないという宿命を抱えている。そのため外交が非常にうまい。もちろん隣国のマレーシアやインドネシア(特に前者)とは複雑な関係・心理的軋轢もあるが、お互いにうまく利用しあっていかなければ…という戦略性が様々な経済政策から感ぜられる。

シンガポール建国の父であるLKYの功績とその限界も的確に指摘している。

人間と社会のあらゆる事象を、それがいかにシンガポールの経済発展に寄与するかという観点からすべてを判断したリー(クアンユー)は、芸術や文学は経済発展には無関係とみなし、国民の間に芸術心や文学心を広げることに無頓着だった。シンガポール文化が不在の一因はここにあった。

自分が当地に住んでいて1番ツラいことはこの「文化の不在」だが、しかし文化がないからこそ縁もゆかりもない外国人が移住して貿易・商業・ビジネスを営みやすかったという側面もあるだろう。

とにもかくにもLKYは政治の舞台から完全に降り、存命ではあるものの政治的発言権は名実共になくなった。その契機になった2011年の総選挙(与党である人民行動党(PAP)の敗北」(野党が過去最高の6議席を取得))はこの小さな国の大きな転換点だったのだな……ということを、本書を通して再確認した。