シンガポールの思い出

2010-2014年、星国に滞在していたときの記録

シンガポール de キッチン浸水

それは歯医者に行った日のことだった。

午後休を取って歯医者に行き、夕方前に帰宅した。洗濯機を回しつつ小一時間ほどネットサーフィンをした。

日が暮れてきた7時過ぎごろ(シンガポールの日暮れは一年中これくらい)、晩御飯を準備しようとキッチンに向かうと、なぜか塩素まじりの異臭がした。外で何か工事しているのかな?と考えていると、キッチンの様子が普段と違う事に気付いた。床一面が水浸しになっている。あれ? と思った次の瞬間、例の異臭はキッチンからしていることに思い至る。そしてキッチンの真ん中にある排水口(なぜかシンガポールのキッチン・バスルームの床には必ず排水口がある)から水が溢れていることを理解した。

理解しても、どういう行動をとるべきかに思いいたるまで1テンポ必要だった。逡巡した後、管理人室(Management Office)に向かう。その途中ですれ違うお隣さんにスマイルを送られる、笑顔を返す。どうやら隣は何事もないらしい。Management Officeに着いた、しかし誰もいない。そう、このコンドミニアムのManagement担当者は常駐していない・・・!

部屋に戻る。ドアを開けるとあの匂いが鼻を突く。塩素と汚れの混じった、汚水の匂いだ。こうなったら大家に連絡するか、いやその前に仲介エージェントに連絡するほうが先な気がする。なかなか仕事ができる女性だし、それにエージェントのほうが修理業者については詳しそうだ。しかしタイミング悪く、自分の携帯電話(スマートフォン)はOSのアップデート中で電話が発信できない。アップデート完了までしばらく時間がある。どうしよう。

そういえば、既に床に貯まっている水をどこかに流さないと冷蔵庫が浸水してしまう。それはやばい。現時点で全体的にうっすらと水たまりになっている状態だが、床には若干傾斜があるらしく排水口部分の水が深くなっている。冷蔵庫はその排水溝から30センチほどの距離にある。

この家には大家が置きっぱなしにしてくれているモップがある。ホウキもある。トイレのつまりを修理するときに使うパコパコする道具も。ひとまず自分でできる範囲のことをしよう・・・と考え、水を掃き出す作業を始めた。水をドアの外(ベランダ的な場所・幸いにしてこっちに別経路の排水口があった)に掃き出していると、だんだん冷静になり頭が回ってくる。インターネットは使えるからSkypeでエージェントに電話しよう。いやその前にManagement Office本部の電話番号が掲示板に書いてあるかを確認しよう。

この時点で貯まっている水をほとんど掃き出した。そしてパコパコを使って意味をなさないこと、パコパコの柄の部分(30センチくらい)を排水溝の中に入れてもめぼしいものには触れないことを確認した。ここまでやってから手を洗って家を出て、1階にある掲示板を確認して番号を覚える。部屋に戻ってskypeでManagement officeに電話した。誰も出ない。そろそろ水が貯まってきたのでほうきで掃き出してから、改めてskypeエージェントに電話する。すぐ応答があった。素晴らしい。

エージェントに「水が・・・」と状況を説明する。エージェントは驚きつつも冷静に「Management officeには連絡したか? 繋がらないか。自分では直せそう? 排水溝に手を入れてどうにか出来ない? むり。じゃあPlumberの連絡先を送るから連絡して」とてきぱきと答えが返ってくる。貰った番号を使ってPlumberに電話すると「今全員出払ってるから、明日の朝に行く。ひとまず水は止めておいて。止めるところあるでしょ?」とつれない対応。止められるなら苦労しないんですけど!

しかし自分は不慣れな外国人。水の元栓があるのかも?と思いエージェントに電話して「水止めるところってあるの?」と訊ねる。エージェント「水は止まらないんじゃないの? Plumberは呼んだ?」自分「Plumberはみんな出払ってて明日朝まで対応できないって。水止めとけって言われた。自分はシンガポールの建物事情詳しくないんだけど、水の大本を止めるようなレバーあるの?」エージェント「・・・ないと思うけど、いちおう大家に聞いてみる。あと別のPlumberも探すよ」自分「じゃあ大家には自分から連絡してみる。Plumberは頼んだ」

大家(シンガポール人おばちゃん)に電話する。自分「かくかくしかじかで水が止まらない。止める方法ってあるの?」大家「なにー! 見に行くからちょっと待ってろ!」自分「いやエージェントがPlumber呼んでるから。止める方法ないの?」大家「止まらないんでしょ? ひとまず重しでも載せておきなさい。すぐ行くから。まだPlumberは呼ばなくていい」電話終了。

この時点で8時ちょっと前。水はまだこんこんと出てくるので定期的に水を掃き出す。ひとまず冷蔵庫の電源は切った。冷凍庫には大したものが入っていないのは不幸中の幸い。肉皿の生肉が若干心配。と、ここで同居人帰宅。一休みした後に水掃き係を交代してもらった。

8時半くらいに大家+旦那さん+息子?が来た。状況を見て、旦那さんに排水溝の中をあれこれさせて、5分くらいで「こりゃだめだ。Plumber呼ばなきゃ」となる(・・・やっぱり!)。大家がエージェントに電話して、エージェントがPlumber を呼ぶ。2、3件のPlumberに電話して、ようやく1件が今すぐ対応できるという。すぐ来てくれと言って、また待機タイム。その間も水が溜まるたびに水を掃き出す。

晩御飯を食べていないというと大家に「食べろ食べろ。私たちは車にいるから」と勧められる。また「冷蔵庫は大丈夫だから電源つけなさい。中のものがだめになっちゃう」といわれ、若干反論したが結局従って電源を戻した。(冷蔵庫も大家の所有物なので、本人の了承があるなら壊れても買い替え請求できるだろうと踏んだ。)

Plumberが到着したのは9時過ぎ。様子を見て、キッチンの流しから水を流してその水が床の排水口から出てくるのを確認して、汚水に油が混じっている事を指摘して「こりゃ流しから流したものが溜まりに溜まって詰まってるんだ。直すのは230ドル」と言う。大家は即「そんなに高いのか? このユニットのじゃなくて建物全体の大本のパイプじゃないのか? とにかく高すぎる!」と値切る。そしてエージェントに電話して、エージェントがPlumberと話して「じゃあ200ドル」とさくっと下がった。大家はさらに下げさせようとするが「最近はガソリンも高いし、transport feeもばかにならないからむり」と言う。エージェントと繋がっている電話を渡されてエージェントと話すと「あいにく契約始めの1ヶ月(大家が修理費を全額負担する期間)は終わっている。契約上、150ドルまでの修理費は借主が負担しなければならない。あなたたちのせいではなく経年劣化によるものかもしれないけど、残念ながら契約上そうだ」と伝えられる。なにー!と自分も反論するが、しかし直さぬわけにはいかぬわけで、渋々承諾して電話を大家に戻した。すると大家が「半分ずつでいい、私たちが100、あなたたちが100」と言ってくれたのでOKした。

ここから(9時10分くらいから)Plumber作業開始。まずトラックから長い長いワイヤのついた道具を持ってくる。コンセントから電源をとり、ワイヤを排水口に入れ、電動でワイヤをキュルキュルとパイプに流し込んでいく。

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ワイヤを1度入れただけでは解決せず、2度3度とワイヤを入れたり出したりの作業が行われる。その合間に巨大なパコパコで圧力を加える作業も。そのおかげでキッチンの壁に汚水が飛び散る(・・・)。そして作業開始から20分ほど経過したところで、つまりの原因と思われる汚ーい物体がワイヤに引っかかって引きずり出されてきた。水がドバーっと排水口に流れていった。

9時半過ぎに事態収束。Plumberに金を払い、自分と大家でキッチンの壁を掃除した。大家が帰ってから自分と同居人でびしょぬれのキッチン床も掃除して、いちおうは綺麗になった。しかし汚水の匂いがひどい。そして自分の手も足もひどい匂いがこびりついている。シャワーを浴びて一息ついたら、11時近くだった。この日はそのまま寝た。翌日は普通に仕事だ。翌朝になったら匂いがかなり薄らいでいたのが不幸中の幸いだった。

教訓 ここは外国。どんなときでも慌てず焦らず、まずは値段交渉。